伝えることの難しさ
一流日系企業で働く中国人社員の方々の研修に、講師として参加しています。会社には「企業理念」があります。それが、中国人社員に伝わらないことがあるんですね。特に、平和憲法を掲げる日本の企業に多いのが、平和への貢献や環境への貢献などに関わる理念や目標です。これは、外国に出たとき、日本人として本当に誇りに思える理念や目標であり、最も外国に人たちに伝えたいメッセージになります。
しかし、ある日系企業での研修で、中国人社員から出てきた目標設定は「軍事産業への市場開拓」でした。さらに、その社員の中国人上司までが「いい発表だった」というものだから、これを聴いた日本人総経理は怒り心頭。「わが社の企業理念は軍事産業には一切関わらないことだ」と顔を赤くして一喝。
この会社には、中国語を話す日本人幹部もいます。さらに多くの中国人社員が日本語を話せる。そんな状況の中でも、企業のハートの部分が社員に浸透していない。
伝えることは、本当に難しいんですね。だからこそ、中国語で中国人社員に会社の理念をしっかりと伝えることができる日本人人材がいれば、それは、その企業にとって本当に価値のある人材になるはずです。「伝える」とは言葉だけでは不十分で、伝える人の魅力までが必要になってくると感じます。中国の人が「この日本人は何か、すばらしいものを持っている」と思われるようなものです。それは、学歴や肩書き、中国語がうまいか下手か、という単純なものではない、何か。
思うにそれは、中国語で、日本人として、自分の生き方や自分の国を語れ、相手を尊重し、受け入れる懐の深さを持った「大きな日本人」ではないか。
そんな日本人が、中国語で語り始めたら、中国の人たちは必ず耳を傾け、少しずつ心を開いてくる。中国語を勉強し始めれば、より上手になることも目標ですが、もっと大事なことは、中国語で、中国の人に伝えたい何が自分の中にあるのか、だと中国の人たちを相手にしていて感じています。
中国語を学ぶことは、レベルの問題だけで、それほど難しいことではありません。しかし、中国語で大事な何かを伝えることは、とても難しいことです。
| 代表PROFILE: 住田 崇(すみだ たかし) GOKU-PROJECT代表。中国語講座《ネット留学・ちゃい語大学》をはじめ、日系企業向けコンサルタントとして、中国語による取材や研修に携わる。 立命館大学卒業。在学中、南京大学に留学。23歳で初めて中国語を学ぶ。大学卒業後、京都新聞社編集局で記者として約8年、滋賀、京都を中心に取材・執筆。同社を辞めた後、家族3人一緒にニュージーランド・クライストチャーチで4ヶ月過ごし、2005年、家族で北京へ。現在に至る。 |

